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愛のおはなし

人を愛したり 人と心を結んだりするのは誰が教えてくれたの?
それはこの島の透き通る海 それはこの島の突き抜ける空
それはこの島の鮮やかな木の葉 それはこの島の自然の神々 
それはこの島の住人のチム(こころ)……                 

                                       うすく村拝

 

第十一話 美織所(チュラヴィンジュ)

 

仲村渠マカテ(ナカンダカリ) 七ひじち布(ヌヌ)や
伊平屋(イヒヤ)ぬ 松金(マチガニ) 遊び(アシ)手巾(ティサジ)

これは琉歌(りゅうか)といってね
沖縄では古くから親しまれている歌 

この歌の内容はね
マカテとう娘が 一生懸命機を織っているのは
恋人の松金(マチガニ)が
毛遊び(モーアシ)(野外で若ものたちが集団で歌ったり踊ったりして遊ぶならわし)で使う手ぬぐいであるといっているんだね

つまりね この歌はこれから始まる恋人どうしのことさあ

さてさて おはなしを始めよう
むかしむかしのはなし このいぜなの南に いえ島というところがある

その島には それはそれは 美しい娘がおったんだがね 名はマカテといった

マカテは神からさずかったその美しさのために 
島のニーセー(若者)たちの注目のまとさ
若者たちは 誰がマカテのこころを射止めるのか 賭けまでするしまつ 

マカテは ある日 船着場に用があって 行くんだね

そこで 一生懸命汗をたらしながら 働いている若者がおったのね
だぁ マカテはこんなに働く若者は 今までみたことがなかった

それからというもの マカテはなにかと用をさがして 
船着場に出かけるようになった

その若者は 荷積みが終わると舟に乗って さっさとどこかに帰って行くんださぁ

その舟が いぜな島に帰って行くのがわかったのは
おいしいお米をいっぱいに積んで来るからさぁ
なにしろ いぜな島は 米どころだからねぇ

いぜな島と知って マカテはひとつ心配なことが 胸に浮かんだねぇ

自分が愛する里(サトゥ)(男の人)はほかの島の人 
これを聞いた島の若い衆は ただではすまさないとおもったのね

なんやかんやして そのうち松金もマカテのつぶらな瞳を感じ始めたね

ふたりは ことばもかわしたことはなかったのだけれど
こころはすでに結ばれていたんだねぇ

ある日 マカテは海をへだてた恋にいたたまれず
あまりの逢いたさに とうとういぜな島に渡って行ったんだ

でもね 松金の家に行くわけにはいかず 
地神岳(ちじんだけ)の近くで機を織りながら 松金が来るのを待ちかねた

それが いぜな島でもいろいろいわれるようになってね
マカテは泣く泣く いえ島にもどって行ったのさ

あんなしてからに 松金はマカテと逢うために 
舟を出す日を多くするようになってねえ

いひゃ渡(ドゥ) 立つ波に 夢(イミ)や橋かきてぃ
夜々(ヤヤ)に思女(ソゾ)うすば 渡てぃ 行ちゅさ

(※いひゃ渡に 立つ波に 夢は橋をかけて 夜々に貴女のおそば 渡って行くさ)

して ふたりが逢う場所は人気のない いえ島の北の海岸にしたんだね

松金は 月明かりをたよりに舟を繰りだして マカテにしばしば逢いにきたんだ

そのうち そのことが 島の若者たちに知られるようになってね
ある月明かりの夜 ふたりがやさしく肩を寄せあっていると
だぁ ばれていたんだねぇ 村のニーセー(若者)たちが
トゥブシ(松明)をかざして さがし回っているんださぁねぇ

「トーヒャー デージ」(さぁ たいへん)
マカテと松金は逃げて逃げて とうとうフチバンタ(崖っぷち)に追い込まれた

「マカテーヤ タシマヌムンケェ クィラン」(マカテはよそ者にはわたさん)

その時 ふたりは深く見つめあったかとおもうと 
なんと フチバンタから身を投げてしまうんだねぇ 
チムグリサヨー!(かわいそうだね!)

マカテが愛する里(サトゥ)のために機を織っていたという 
その平べったい岩なんだけど いえ島が遠くに見渡せる丘の上にあるんだね
それをね島では美織所(チュラヴィンジュ)と呼んでいるよ

不思議なことにね 美織所で耳をすましていると
カタカタ コトコト 機を織る音が聞こえるらしいねぇ

きっとそれはマカテが松金をカナサ(愛)するこころを
今でも紡ぎ続けている音なんだね

これではなしはおしまいだけれど もうひとつ琉歌を紹介して
ほんとうにおしまいにしようね

後原(クシバル)の柴苔(シセ)や 取(トゥ)ゆるむのーあらん
仲村渠(ナカンダカリ)マカテ 潮(ウス)にむまち
(後原の柴苔(しばごけ)は取るものじゃないよ
マカテのなきがらが潮にもまれたところだから)

この琉歌はね いえ島の人たちがマカテのことをふびんにおもってよんだものというよ
                           ほんとうにおしまい
※いひゃ渡=いえ島といぜな島の間にある舟の難所

第十二話 娘は宝

 

むかしむかしのねぇ 大金持ちの さむらいの家のはなし

ミィートゥンダ(夫婦)は とても仲がよくてねぇ
そのうえ かしこいチュラハギ(美しい)娘もいたんだ

とにかく なに不自由のないくらしをしていたわけだねぇ

でも ティーチ(ひとつ)だけ さみしい おもいをしていることがあったんだんよ

それは 長いあいだこのミィートゥンダには
後つぎのチャクシ(長男)に恵まれなっかたというわけなんだ

ある日 主人がためいきをつきながらこういった

「これは※フンシー(風水)が悪いせいにちがいない」

妻のほうもあいづちをうちながら

「アホーヤ(それなら)村のユタ(霊媒者・預言者)にみてもらいましょう それがいい」

と妻は自分でいい出し 賛成も自分でしたんだねぇ

いつも ものしずかなユタばぁさんは この日にかぎって とても恐い顔でどなるようにいったわけさぁ

「おまえたちの家がワッサン(悪い)一日も早くぜんぶやきはらってしまいなさいよ ワハティー(わかったねぇー)」

といったかとおもうとユタディマ(礼金)を押し込みながら
今にもころばんばかりに帰って行った

妻は 家を焼き払ったら アチャー(明日)から私たち 
どうしたらいいのと騒ぎ出したさぁ

「ユタのいうことは絶対聞かない方がいい ちっともあたらないんだから」

妻は自分が最初にユタを頼んだのも忘れて涙ぐみながらいったさぁね

「アーバァーイ ヌーテェン イサヤー」(ああ なんてことをいうんだ) ワッター(私たち)に長男をさずからないことがあると
トートーメー(いはい)がとだえるばかりか  
首里の王さまにも あとあと ごほうこうできなくなるんだぞー」

主人は気がくるったように 止める妻をふりはらい 
とうとうりっぱなお屋敷に火をつけてしまったのさぁ

その日から 家族三人は ほんとうに路頭にまよってしまったねぇ

「自分で自分の家に火をつけるなんてウフフリムン(とっても気ちがい)だよ」と

くちぐちに世間の人たちはいった

そのうち ヤーグナ(家族)は村にいることができなくなってねぇ
海を渡り旅にでたさぁねぇ

いく日も歩いて歩いて そのうち人通りの多いにぎやかなところにきてねぇ

立派な姿のサムレー(おさむらい)や女の人が身にまとっているきれいな着物をみていると むかしの自分たちのことをおもい出してねぇ とても悲しくなってしまった

それに ひもじさと疲れで とうとう道端でうずくまってしまったんだねぇ

そこで 肩をヨンナー(ゆっくり)たたく人がいるんだねぇ

はなしを聞くと
「自分は通りがかりの首里のサムレーだが
御主加那志之前(ウシュガナシーヌメェー)(王さま)があなたの娘さんを一目みて気に入られた ついてはお城まで来てはもらえないか」といったんだねぇ

娘はとても美しく 気立てもやさしかったので 御主加那志之前は ますますその娘を気に入り 首里に家を与えたというわけさぁ

それから このヤーグナはデージナ(とても)しあわせに暮らしたというさぁ

そんなことがあってから 家内に美人の娘がいると いつかきっと
いいことがあるとおもわれているね この村では……
                              これで おしまい

第十三話 高い所に流れる水

 

むかしね このいぜな島の千原(センバル)に逆田(さかた)という
不思議な田んぼがあったさあ

それはね 雨がながーい間降らずサーイ(かんばつ)がこの島をおそった時もね
その田んぼだけは いつもまんまんと水をたたえていたというよ

それだけではない その田んぼは 他の田んぼより高い所にあるにもかかわらず

不思議 不思議 島の人たちはいつもそのはなしでもちきりだったね

この物語はね この田んぼのことから始まるはなしなんだ

この田んぼの持ち主は金丸(かなまる)という名の若者だったよ

やさしいこころをもっていて しかも働き者でね

島では鳥も歌いだしてホメちぎる評判の若者さ

なくなることのない田んぼの水には金丸も不思議におもっていてね
だけど どうしてなのかまったくわからなかったさぁね

たくさんいる鳥が田んぼに水を運んでくれているんだろうか
などと考えたりしてたね 金丸も…
周囲に田んぼのある島の人たちは そのうち
金丸がこっそり水をぬすんでいるんじゃないか などなど
コソコソうわさばなしをいうようになったさぁね

風のうわさは島じゅうに広がった
そんなこんなで はなしはマチヴイ(こんがらがって)
金丸はふるさとにもいづらくなってね

ある老人のお告げもあり 島を出て行くことになったんだねぇ
その老人のお告げにしたがって アハトゥチ(夜明前)島を後にするんだねぇ

そのとき 舟出した海岸が「アハシチバル」といってね 島の東にあるさぁ
朝日が出始め 明るくなりかけた頃に出発したところから
アハシチバルの名はつけられたらしいよ ホントのこと

そうそう その近くに「クーイリ」というところがあるんけど
なんと その舟出した時の足跡も残っているらしいさね

それから金丸は沖縄本島のいろんな所に行くんだけどね
誠実な人柄もあって 行く先々 立ちどころに人々にしたわれたらしいよ

まあ どこに行っても働き者をねたむ人はいるからね
泣く泣くその村を出て行くことも またまたあったんだよね

最初のヤンバル(国頭)(クニガミ)ではカンジャー(鍛冶屋)の仕事で 村の人たちにたいへん尊敬されたはなしだね

そのつぎは 西原の(ニシバル)の内間(ウチマ)というところに行ったのだけれども
そこでは漁業にせいを出して 村の人たちにたくさんの魚を分け与えそうだよ

そんなこんなで 金丸はウマンチュ(人々)にこよなく
愛されるようになんったんだね

その評判はね 首里の都にも伝わってね
御主加那志前(ウシュガナシーヌーメェー)(王さま)にめしかかえられた
そして とうとう金丸は王さまになった はなしなんだ

王さまの名前は尚円王(しょうえんおう)というよ
これが金丸が王さまになるまでのはなしさ
                      これで おしまい

えっ?金丸の田んぼがいつも水をたたえていたのはなぜかって?
それはね ほら 金丸はやさしく働き者で 美男子だったから
島のミヤラビ(娘)たちにすごくしたわれていたでしょ
そういうこともあってミヤラビたちが 毎晩毎晩
かわりばんこに 金丸の田んぼに 水を運んでいたというわけさぁ
                          ほんとに おしまい

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